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神戸地方裁判所 昭和31年(ワ)125号 判決

神戸市生田区北長狭通二丁目一五番地

原告

箕輪広吉

右訴訟代理人弁護士

小松克已

被告

右指定代理人

麻植福雄

中川利郎

右当事者間の昭和三一年(ワ)第一二五号不動産売買無効確認等請求事件につき当裁判所は次のとおり判決する。

主文

被告は原告に対し別紙目録記載の不動産につき神戸地方法務局昭和三〇年九月二七日受付第一五三四九号をもつてなされた同年二月二八日契約による抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、請求の原因として、訴外箕輪孝次郎は原告の養子であるが、原告はその亡妻タマの死亡後昭和二五年二月二八日訴外川本たよと婚姻したところ、被告は右たよが原告所有の別紙目録記載不動産(以下本件不動産という。)を取得するようなことになることをおそれた結果、昭和二九年二月初旬恣に原告の印鑑等を冒用して登記所要書類を偽造し神戸地方法務局同年五月一九日受付第七二九九号をもつて同年二月一日付売買による所有権移転登記手続を経由した。ところが、所轄税務署長はこれを贈与と見做したため右孝次郎は贈与税額金六五〇、〇〇〇円の申告をし、その租税債務担保のため昭和三〇年二月二八日孝次郎と原告所有の本件不動産につき抵当権を設定する旨約し、被告は同年九月二七日主文第一項記載のような抵当権設定登記を嘱託により了した次第であつて、右抵当権設定契約は無効であるから、該登記は原因を欠く無効のものである。

よつて、原告は被告に対し右抵当権設定登記の抹消登記手続の履行を求めるため本訴に及んだ、と述べ、立証として、甲第一号証を提出し、証人箕輪孝次郎、箕輪都美子の各証言、原告本人尋問の結果を援用した。

被告指定代理人は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、答弁として、原告の主張事実中、箕輪孝次郎が原告の子であること、原告が亡妻タマ死亡後、川本たよと婚姻したこと、原告主張の日その主張のような各原因による所有権移転登記及び抵当権設定登記がそれぞれ経由されていることはこれを認めるが、その余の事実はこれを否認する。すなわち、孝次郎は本件不動産を使用して飲食店を営んでいるものであるが、原告の後妻たよとの仲が円満を欠くので将来自己において本件不動産を相続できなくなるかも知れないと考えて、原告に対し本件不動産を贈与されたい旨要求した結果昭和二九年初頃原告からその贈与を受けたうえ、前述のように同年五月一九日売買名義による所有権移転登記手続をした、そこで、孝次郎は神戸税務署長に対し贈与税金七八三、五二〇円の申告をし、内金六五〇、〇〇〇円につき同署長から延納の許可を受けたうえ、昭和三〇年二月二八日同署長と右租税債務担保のため本件不動産につき抵当権を設定する旨契約し被告において前記抵当権設定登記をした次第であつて、該登記は登記原因を欠くものではない。よつて、原告の本訴請求に応じられない、と述べ、立証として、証人山之内良一、馬島俊彦、芦田英雄の各証言を援用し、甲第一号証の成立を認めた。

理由

訴外箕輪孝次郎が原告の子であること、原告が亡妻タマ死亡後訴外たよと婚姻したこと、本件不動産につき原告主張の日その主張のような各原因による所有権移転登記及び抵当権設定登記がなされていることは当事者間に争がない。

原告は、孝次郎は原告から本件不動産の贈与を受けたことはないと主張するので検討を加える。成立に争のない甲第一号証、証人箕輪孝次郎、箕輪都美子、山之内良一(一部)の各証言と原告本人尋問の結果によると、本件不動産は原告の所有であるが、孝次郎の妻と原告の後妻と、したがつて孝次郎と原告との仲も円満を欠き、かねて原告は本件不動産は孝次郎にはやらぬと言明していたため、孝次郎は将来自己においてこれを相続取得することもできなくなるかも知れないと考えた結果、昭和二九年二月頃恣に原告の印鑑等を冒用し登記所要書類を偽造してその主張のような売買による所有権移転登記を経由したところ、神戸税務署長から売買を贈与とみなされ山之内税理士を介して贈与税の申告とその延納申請をし、かつ昭和三〇年二月二八日その担保のため登記簿上自己所有名義の本件不動産につき抵当権を設定する旨約し、前記抵当権設定登記を経由したことが認められる。右認定に反する前記山之内良一、証人馬島俊彦、芦田英雄の証言は、前記箕輪孝次郎の証言、原告本人尋問の結果に照らし信用しない。なお、前記山之内の証言によれば、山之内税理士は原告のため本件不動産の譲渡所得税の申告をしている事実が認められるが、同証言、原告本人尋問の結果によると、右申告は同税理士において原告の意思を忖度して、しかしその意思に反して、したことが窺われるので、右事実は前認定の支障とはならない。

してみると、孝次郎は原告、つまり他人所有の本件不動産につき抵当権設定契約をしたわけであるから物権契約としての該契約は(贈与税債務の存否は別論として)無効というほかない。したがつて、前記抵当権設定登記はその原因を欠く無効のものである。

とすると、被告は原告に対し右抵当権設定登記の抹消登記手続を履行すべき義務があるものといわなければならない。

よつて、原告の本訴請求を相当として認容し、訴訟費用の負担につき民訴八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山内敏彦)

目録

神戸市生田区北長狭通二丁目一五番地上

家屋番号一一七番の二

一、木造瓦葺平家建旅館一棟

建坪 一三坪五勺

同所一五番の五地上

家屋番号一一八番

一、木造瓦葺平家建店舗一棟

建坪 一八坪六合五勺

以上

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